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父なーんだ。

恐がりだな千尋は。

ねっ、ちょっとだけ。

母引越センターのトラックが来ちゃうわよ。

父平気だよ、カギは渡してあるし、全部やってくれるんだろ?

母そりゃそうだけど…

千尋いやだ、わたし行かないよ!

戻ろうよ、おとうさん!

父おいで、平気だよ。

千尋わたし行かない!

うぅ…あぁっ!

母千尋は車の中で待ってなさい。

千尋ぅぅ…おかあさーん!

まってぇーっ!

父足下気をつけな。

母千尋、そんなにくっつかないで。

歩きにくいわ。

千尋ここどこ?

母あっ。

ほら聞こえる。

千尋…電車の音!

母案外 駅が近いのかもしれないね。

父いこう、すぐわかるさ。

 

千尋こんなとこに家がある…

父やっぱり間違いないな。

テーマパークの残骸だよ、これ。

90年頃にあっちこっちでたくさん計画されてさ。

バブルがはじけてみんな潰れちゃったんだ。

これもその一つだよ、きっと。

千尋えぇーっ、まだいくの!

おとうさん、もう帰ろうよぅ!

ねぇーーーっ!

千尋おかあさん、あの建物うなってるよ。

母風鳴りでしょ。

気持ちいいとこねー、車の中のサンドイッチ持ってくれば良かった。

父川を作ろうとしたんだねー。

ん?

なんか匂わない?

母え?

父ほら、うまそうな匂いがする。

母あら、ほんとね。

父案外まだやってるのかもしれないよ、ここ。

母千尋、はやくしなさい。

千尋まーってー!

父ふん、ふん…こっちだ。

母あきれた。

これ全部 食べ物屋よ。

千尋誰もいないねー。

あそこだ!

おーい、おーい。

はぁー。

うん、わぁ。

こっちこっち。

母わぁー、すごいわねー。

父すみませーん、どなたかいませんかー?

母千尋もおいで、おいしそうよ。

父すいませーん!

母いいわよ、そのうち来たらお金払えばいいんだから。

父そうだな。

そっちにいいやつが…

母これなんていう鳥かしら。

…おいしい!

千尋、すっごくおいしいよ!

千尋いらない!

ねぇ帰ろ、お店の人に怒られるよ。

父大丈夫、お父さんがついてるんだから。

カードも財布も持ってるし。

母千尋も食べな。

骨まで柔らかいよ。

父辛子。

母ありがと。

千尋おかぁさん、おとぅさん!

諦めて歩き出す千尋。

油屋の建物を見つける。

千尋へんなの。

千尋電車だ!

…?

ハク様…!

ここへ来てははいけない!

すぐ戻れ!

千尋えっ?

ハク様じきに夜になる!

その前に早く戻れ!

…もう明かりが入った、急いで!

私が時間を稼ぐ、川の向こうへ走れ!

千尋なによあいつ…

明かりが入ると同時に、たくさんの影が動き出す。

千尋……!

おとうさーん!

おとうさん帰ろ、帰ろう、おとうさーん!

座っていた豚が振り向く。

千尋ひぃぃ…っ

豚がたたかれて倒れる。

豚ブギィィィ!

千尋ぅわぁあーっ!

おとおさーん、おかあさーん!

おかあさーん、ひっ!

ぎゃああーーっ!

千尋ひゃっ!

…水だ!

うそ…夢だ、夢だ!

さめろさめろ、さめろ!

さめてぇ…っ…

これはゆめだ、ゆめだ。

みんな消えろ、消えろ。

きえろ。

あっ…ぁあっ、透けてる!

ぁ…夢だ、絶対夢だ!

船が接岸し、春日さまが出てくる。

千尋ひっ…ひっ、ぎゃあああーーっ!

千尋を捜すハク。

暗闇にいる千尋を見つけて肩を抱く。

千尋っっっ!

ハク様怖がるな。

私はそなたの味方だ。

千尋いやっ、やっ!

やっっ!

ハク様口を開けて、これを早く。

この世界のものを食べないとそなたは消えてしまう。

千尋いやっ!

…っ!

ハク様大丈夫、食べても豚にはならない。

噛んで飲みなさい。

千尋…ん…んぅ…んー…っ

ハク様もう大丈夫。

触ってごらん。

千尋さわれる…

ハク様ね?

さ、おいで。

千尋おとうさんとおかあさんは?

どこ?

豚なんかになってないよね!

ハク様今は無理だけど必ず会えるよ。

…!

静かに!

ハクが千尋を壁に押しつけると、上空を湯バードが飛んでいく。

ハク様そなたを捜しているのだ。

時間がない、走ろう!

千尋ぁっ…立てない、どうしよう!

力が入んない…

ハク様落ち着いて、深く息を吸ってごらん…そなたの内なる風と水の名において…解き放て…

立って!

千尋あっ、うわっ!

走り出す二人。

ハク様…橋を渡る間、息をしてはいけないよ。

ちょっとでも吸ったり吐いたりすると、術が解けて店の者に気づかれてしまう。

千尋こわい…

ハク様心を鎮めて。

従業員いらっしゃいませ、お早いお着きで。

いらっしゃいませ。

ハク様所用からの戻りだ。

従業員へい、お戻りくださいませ。

ハク様深く吸って…止めて。

カオナシが千尋を見送る。

湯女いらっしゃい、お待ちしてましたよ。

ハク様しっかり、もう少し。

青蛙ハク様ぁー。

何処へ行っておったー?

千尋…!

ぶはぁっ

青蛙ひっ、人か?

走れ!

青蛙…ん?

え、え?

青蛙に術をかけて逃げるハク。

従業員ハク様、ハク様!

ええい匂わぬか、人が入り込んだぞ!

臭いぞ、臭いぞ!

ハク様勘づかれたな…

千尋ごめん、私 息しちゃった…

ハク様いや、千尋はよく頑張った。

これからどうするか離すからよくお聞き。

ここにいては必ず見つかる。

私が行って誤魔化すから、そのすきに千尋はここを抜け出して…

千尋いや!

行かないで、ここにいて、お願い!

ハク様この世界で生き延びるためにはそうするしかないんだ。

ご両親を助けるためにも。

千尋やっぱり豚になったの夢じゃないんだ…

ハク様じっとして…

騒ぎが収まったら、裏のくぐり戸から出られる。

外の階段を一番下まで下りるんだ。

そこにボイラー室の入口がある。

火を焚くところだ。

中に釜爺という人がいるから、釜爺に会うんだ。

千尋釜爺?

ハク様その人にここで働きたいと頼むんだ。

断られても、粘るんだよ。

ここでは仕事を持たない者は、湯婆婆に動物にされてしまう。

千尋湯婆婆…って?

ハク様会えばすぐに分かる。

ここを支配している魔女だ。

嫌だとか、帰りたいとか言わせるように仕向けてくるけど、働きたいとだけ言うんだ。

辛くても、耐えて機会を待つんだよ。

そうすれば、湯婆婆には手は出せない。

千尋うん…

従業員ハク様ぁー、ハク様ー、どちらにおいでですかー?

ハク様いかなきゃ。

忘れないで、私は千尋の味方だからね。

千尋どうして私の名を知ってるの?

ハク様そなたの小さいときから知っている。

私の名は――ハクだ。

ハク様ハクはここにいるぞ。

従業員ハク様、湯婆婆さまが…

ハク様分かっている。

そのことで外へ出ていた。

階段へ向う千尋。

恐る恐る踏み出し、一段滑り落ちる。

千尋ぃやっ!

はっ、はぁっ…

もう一段踏み出すと階段が壊れ、はずみで走り出す。

千尋わ…っいやああああーーーーっ!

やあぁああああああー!

なんとか下まで降り、そろそろとボイラー室へむかう。

ボイラー室で釜爺をみて後ずさりし、熱い釜に触ってしまう。

千尋あつっ…!

カンカンカンカン(ハンマーの音)

千尋あの…。

すみません。

あ、あのー…あの、釜爺さんですか?

釜爺ん?

…ん、んんーー?

千尋…あの、ハクという人に言われてきました。

ここで働かせてください!

リンリン(呼び鈴の音)

釜爺ええい、こんなに一度に…

チビども、仕事だー!

カンカンカンカンカンカン

釜爺わしゃあ、釜爺だ。

風呂釜にこき使われとるじじいだ。

チビども、はやくせんか!

千尋あの、ここで働かせてください!

釜爺ええい、手は足りとる。

そこら中ススだらけだからな。

いくらでも代わりはおるわい。

千尋あっ、ごめんなさい。

あっ、ちょっと待って。

釜爺じゃまじゃま!

千尋…あっ。

重さで潰れたススワタリの石炭を持ち上げる千尋。

ススワタリは逃げ帰ってゆく。

千尋あっ、どうするのこれ?

ここにおいといていいの?

釜爺手ぇ出すならしまいまでやれ!

石炭を釜に運ぶと、ススワタリみんなが潰れた真似をしだす。

カンカンカンカン

釜爺こらあー、チビどもー!

ただのススにもどりてぇのか!

あんたも気まぐれに手ぇ出して、人の仕事を取っちゃならね。

働かなきゃな、こいつらの魔法は消えちまうんだ。

ここにあんたの仕事はねぇ、他を当たってくれ。

…なんだおまえたち、文句があるのか?

仕事しろ仕事!

リンメシだよー。

なぁんだまたケンカしてんのー?

よしなさいよもうー。

うつわは?

ちゃんと出しといてって言ってるのに。

釜爺おお…メシだー、休憩ー!

やばいよ、さっき上で大騒ぎしてたんだよ!

釜爺わしの…孫だ。

リンまごォ?

釜爺働きたいと言うんだが、ここは手が足りとる。

おめぇ、湯婆婆ンとこへ連れてってくれねえか?

後は自分でやるだろ。

リンやなこった!

あたいが殺されちまうよ!

釜爺これでどうだ?

イモリの黒焼き。

上物だぞ。

どのみち働くには湯婆婆と契約せにゃならん。

自分で行って、運を試しな。

リン…チェッ!

そこの子、ついて来な!

千尋あっ。

リン…あんたネェ、はいとかお世話になりますとか言えないの!

千尋あっ、はいっ。

リンどんくさいね。

はやくおいで。

靴なんか持ってどうすんのさ、靴下も!

千尋はいっ。

リンあんた。

釜爺にお礼言ったの?

世話になったんだろ?

千尋あっ、うっ!

…ありがとうございました。

釜爺グッドラック!

リン湯婆婆は建物のてっぺんのその奥にいるんだ。

早くしろよォ。

リン鼻がなくなるよ。

千尋っ…

リンもう一回乗り継ぐからね。

千尋はい。

リンいくよ。

…い、いらっしゃいませ。

お客さま、このエレベーターは上へは参りません。

他をお探し下さい。

千尋ついてくるよ。

リンきょろきょろすんじゃないよ。

蛙男到着でございます。

右手のお座敷でございます。

…リン。

リンはーい。

(ドン!

千尋ぅわっ!

蛙男なんか匂わぬか?

人間だ、おまえ人間くさいぞ。

リンそーですかぁー?

蛙男匂う匂う、うまそうな匂いだ。

おまえなんか隠しておるな?

正直に申せ!

リンこの匂いでしょ。

蛙男黒焼き!

…くれぇーっ!

リンやなこった。

お姉さま方に頼まれてんだよ。

蛙男頼む、ちょっとだけ、せめて足一本!

リン上へ行くお客さまー。

レバーをお引き下さーい。

『二天』につくが、『天』まで千尋を連れて行くおしらさま。

奥のドアを開けようとする千尋。

湯婆婆…ノックもしないのかい!

千尋やっ!

湯婆婆ま、みっともない娘が来たもんだね。

さぁ、おいで。

…おいでーな~。

千尋わっ!

わ…っ!

いったぁ~…

頭が寄ってくる。

千尋ひっ、うわぁ、わあっ…わっ!

湯婆婆うるさいね、静かにしておくれ。

千尋あのー…ここで働かせてください!

魔法で口チャックされる千尋。

湯婆婆馬鹿なおしゃべりはやめとくれ。

そんなひょろひょろに何が出来るのさ。

ここはね、人間の来るところじゃないんだ。

八百万の神様達が疲れをいやしに来るお湯屋なんだよ。

それなのにおまえの親はなんだい?

お客さまの食べ物を豚のように食い散らして。

当然の報いさ。

おまえも元の世界には戻れないよ。

…子豚にしてやろう。

ぇえ?

石炭、という手もあるね。

へへへへへっ、震えているね。

…でもまあ、良くここまでやってきたよ。

誰かが親切に世話を焼いたんだね。

誉めてやらなきゃ。

誰だい、それは?

教えておくれな…

湯婆婆まァだそれを言うのかい!

千尋ここで働きたいんです!

湯婆婆だァーーーまァーーーれェーーー!

湯婆婆なんであたしがおまえを雇わなきゃならないんだい!

見るからにグズで!

甘ったれで!

泣き虫で!

頭の悪い小娘に、仕事なんかあるもんかね!

お断りだね。

これ以上穀潰しを増やしてどうしようっていうんだい!

それとも…一番つらーーいきつーーい仕事を死ぬまでやらせてやろうかぁ…?

湯婆婆…ハッ!

坊あーーーーん、あーーん、ああああーーー

湯婆婆やめなさいどうしたの坊や、今すぐ行くからいい子でいなさいね…まだいたのかい、さっさと出て行きな!

湯婆婆大きな声を出すんじゃない…うっ!

あー、ちょっと待ちなさい、ね、ねぇ~。

いい子だから、ほぉらほら~。

千尋働かせてください!

湯婆婆わかったから静かにしておくれ!

おおぉお~よ~しよし~…

紙とペンが千尋の方へ飛んでくる。

湯婆婆契約書だよ。

そこに名前を書きな。

働かせてやる。

その代わり嫌だとか、帰りたいとか言ったらすぐ子豚にしてやるからね。

千尋あの、名前ってここですか?

湯婆婆そうだよもぅぐずぐずしないでさっさと書きな!

まったく…つまらない誓いをたてちまったもんだよ。

働きたい者には仕事をやるだなんて…

書いたかい?

千尋はい…あっ。

湯婆婆フン。

千尋というのかい?

湯婆婆贅沢な名だねぇ。

今からおまえの名前は千だ。

いいかい、千だよ。

分かったら返事をするんだ、千!

千は、はいっ!

ハク様お呼びですか。

湯婆婆今日からその子が働くよ。

世話をしな。

ハク様はい。

…名はなんという?

千え?

ち、…ぁ、千です。

ハク様では千、来なさい。

千ハク。

あの…

ハク様無駄口をきくな。

私のことは、ハク様と呼べ。

千…っ

父役いくら湯婆婆さまのおっしゃりでも、それは…

兄役人間は困ります。

ハク様既に契約されたのだ。

父役なんと…

千よろしくお願いします。

湯女あたしらのとこには寄こさないどくれ。

湯女人臭くてかなわんわい。

ハク様ここの物を三日も食べれば匂いは消えよう。

それで使い物にならなければ、焼こうが煮ようが好きにするがいい。

仕事に戻れ!

リンは何処だ。

リンえぇーっ、あたいに押しつけんのかよぅ。

ハク様手下をほしがっていたな。

父役そうそう、リンが適役だぞ。

リンえーっ。

ハク様千、行け。

千はいっ。

リンやってらんねぇよ!

埋め合わせはしてもらうからね!

兄役はよいけ。

リンフン!

…来いよ。

リン…おまえ、うまくやったなぁ!

千えっ?

リンおまえトロイからさ、心配してたんだ。

油断するなよ、わかんないことはおれに聞け。

な?

千うん。

リン…ん?

どうした?

千足がふらふらするの。

リンここがおれたちの部屋だよ。

食って寝りゃ元気になるさ。

前掛け。

自分で洗うんだよ。

…袴。

チビだからなぁ…。

でかいな。

千リンさん、あの…

リンなに?

千ここにハクっていうひと二人いるの?

リン二人ぃ?

あんなの二人もいたらたまんないよ。

…だめか。

あいつは湯婆婆の手先だから気をつけな。

千…んっ…ん…

リン…おかしいな…あああ、あったあった。

おい、どうしたんだよ?

しっかりしろよぅ。

女うるさいなー。

なんだよリン?

リン気持ち悪いんだって。

新入りだよ。

湯婆婆が鳥になって飛んでいく。

見送るハク。

寝ている千のもとへ、ハクが忍んでくる。

ハク様橋の所へおいで。

お父さんとお母さんに会わせてあげる。

部屋を抜け出す千。

千靴がない。

…あ。

ありがとう。

ススワタリに手を振る千。

橋の上でカオナシに会う。

ハク様おいで。

花の間を通り畜舎へ。

千…おとうさんおかあさん、私よ!

…せ、千よ!

おかあさん、おとうさん!

病気かな、ケガしてる?

ハク様いや。

おなかが一杯で寝ているんだよ。

人間だったことは今は忘れている。

千うっ…くっ…おとうさんおかあさん、きっと助けてあげるから、あんまり太っちゃだめだよ、食べられちゃうからね!

垣根の下でうずくまる千。

ハクが服を渡す。

ハク様これは隠しておきな。

千あっ!

…捨てられたかと思ってた。

ハク様帰るときにいるだろう?

千これ、お別れにもらったカード。

ちひろ?

…千尋って…私の名だわ!

ハク様湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ。

いつもは千でいて、本当の名前はしっかり隠しておくんだよ。

千私、もう取られかけてた。

千になりかけてたもん。

ハク様名を奪われると、帰り道が分からなくなるんだよ。

私はどうしても思い出せないんだ。

千ハクの本当の名前?

ハク様でも不思議だね。

千尋のことは覚えていた。

お食べ、ご飯を食べてなかったろ?

千食べたくない…

ハク様千尋の元気が出るように呪い(まじない)をかけて作ったんだ。

お食べ。

千…ん…ん、んっ……うわぁああーー、わぁああーーー、あぁああーーん…

ハク様つらかったろう。

さ、お食べ。

千ひっく…うぁあーーん…

ハク様一人で戻れるね?

ハクありがとう、私がんばるね。

ハク様うん。

帰り際、空に昇る白い竜を見つける。

千わぁっ。

釜爺が水を飲みに起き、寝ている千を見つける。

座布団を掛けてやる。

湯婆婆が戻ってくる。

リンどこ行ってたんだよ。

心配してたんだぞ。

千ごめんなさい。

名札を掛けるのに手間取る千。

湯女じゃまだねぇ。

リン千、もっと力はいんないの?

兄役リンと千、今日から大湯番だ。

リンえぇーっ、あれは蛙の仕事だろ!

兄役上役の命令だ。

骨身を惜しむなよ。

水を捨てに来る千。

外に立っているカオナシを見つける。

千あの、そこ濡れませんか?

リン千、早くしろよ!

千はーーい。

…ここ、開けときますね。

湯女リン、大湯だって?

リンほっとけ!

リンひでぇ、ずーっと洗ってないぞ。

転ぶ千。

千うわっ!

…あーっ。

リンここの風呂はさ、汚しのお客専門なんだよ。

うー、こびりついてて取れやしねえ。

兄役リン、千。

一番客が来ちまうぞ。

リンはーーい今すぐ!

チッ、下いびりしやがって。

一回薬湯入れなきゃダメだ。

千、番台行って札もらってきな。

千札?

…うわっ!

リン薬湯の札だよ!

千はぁーい。

…リンさん、番台ってなに?

湯婆婆ん?

…なんだろうね。

なんか来たね。

雨に紛れてろくでもないものが紛れ込んだかな?

街を進んでくるオクサレさま。

番台蛙そんなもったいないことが出来るか!

…おはようございます!

良くお休みになられましたか!

湯女春日様。

番台蛙はい、硫黄の上!

…いつまでいたって同じだ、戻れ戻れ!

手でこすればいいんだ!

おはようございます!

…手を使え手を!

千でも、あの、薬湯じゃないとダメだそうです。

番台蛙わからんやつだな…あっ、ヨモギ湯ですね。

どーぞごゆっくり…

千あっ…

背後にカオナシを見つけて会釈する千。

番台蛙んん?

リリリリリ

番台蛙はい番台です!

…あっ、…うわっ!

ありがとうございます!

番台蛙あー、違う!

こら待て、おい!

湯婆婆どしたんだい!

番台蛙い、いえ、なんでもありません。

湯婆婆なにか入り込んでるよ。

番台蛙人間ですか。

湯婆婆それを調べるんだ。

今日はハクがいないからね。

リンへぇーずいぶんいいのくれたじゃん。

これがさ、釜爺のとこへ

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