中日对照道德经Word格式文档下载.docx
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天地不仁、以萬物爲芻狗、聖人不仁、以百姓爲芻狗、天地之閒、其猶嚢†籥乎、虚而不屈、動而愈出、多言數窮、不如守中、
†嚢の字、ほんとは中が八でなく石で下が木。
天地は仁ならず。
萬物を以て芻狗*と爲す。
聖人は仁ならず。
百姓を以て芻狗と爲す。
天地の閒は其れ猶ほ嚢†龠*のごときか。
虚なるも屈(つ)きず、動かせば愈々出だす。
多言は數々窮す、中を守るに如かず。
*芻狗、すうく、草で作った犬の人形。
(祭りの時の飾り物にする、祭りの後は捨てられ踏まれたりする)。
*嚢†龠、たくやく、ふいご。
六
谷神不死、是謂玄牝、玄牝之門、是謂天地之根、緜緜若存、用之不勤、
谷神は死せず、是を玄牝(げんひん)と謂ふ。
玄牝の門、是を天地の根と謂ふ。
緜緜*として存するがごとく、之を用ひて勤(つ)きず。
*緜緜、めんめん、長々と続いて絶えないさま。
七
天長地久、天地所以能長且久者、以其不自生、故能長生、是以聖人、後其身而身先、外其身而身存、非以其无私耶、故能成其私、
天は長く地は久し。
天地の能く長く且つ久しき所以の者は、其の自ら生ぜざるを以てなり。
故に能く長生す。
是を以て聖人は其の身を後にして而も身は先んじ、其の身を外にして而も身は存す。
その无私なるを以てに非ずや。
故に能く其の私を成す。
八
上善若水、水善利萬物、而不爭、處衆人之所惡、故幾於道、居善地、心善淵、與善仁、言善信、政善治、事善能、動善時、夫唯不爭、故无尤、
上善は水のごとし。
水は善く萬物を利して而も爭はず。
衆人の惡むところに處る。
故に道に幾(ちか)し。
居るには地を善しとし、心には淵(ふか)きを善しとし、與(とも)にするには仁なるを善しとし、言には信あるを善しとし、政には治まるを善しとし、事には能あるを善しとし、動くには時なるを善しとす。
夫れ唯だ爭はず、故に尤(とが)无し。
九
持而盈之、不如其已、揣而鋭之、不可長保、金玉滿堂、莫之能守、富貴而驕、自遺其咎、功遂身退、天之道、
持して之を盈たすは、其の已むるに如かず。
揣*して之を鋭くするは、長く保つべからず。
金玉堂に滿つれば、之を能く守る莫く、富貴にして驕れば自ら其の咎を遺す。
功遂げて身退くは、天の道なり。
*揣、し、鍛える。
十
載営魄抱一、能无離乎、專氣致柔、能嬰兒乎、滌除玄覽、能无疵乎、愛民治國、能无以知乎、天門開闔、能爲雌乎、明白四達、能无以爲乎、生之畜之、生而不有、爲而不恃、長而不宰、是謂玄德、
營魄*を載(やす)んじ一を抱きて、能く離るゝ无からんか。
氣を專らにし柔を致して能く嬰兒ならむか。
玄覽*を滌除*して能く疵(きず)无からむか。
民を愛し國を治めて能く以て知らるゝ无からむか。
天門開闔*して能く雌*たらんか。
明白に四(よも)に達して能く无爲ならむか。
之を生じ之を畜(やしな)ひ、生ずるも而も有とせず、爲すも而も恃まず、長たるも而も宰たらず。
是を玄德と謂ふ。
*營魄、えいはく、迷える魄(肉体を主宰する陰の生気)。
*玄覽、げんらん、心。
*滌除、てきぢよ、洗い清める。
*開闔、かいかふ、開閉。
*雌、し、女性的原理。
十一
三十輻共一轂、當其无、有車之用、延†埴以爲器、當其无、有器之用、鑿戸牘†、以爲室、當其无、有室之用、故有之以爲利、无之以爲用、
†延の字、ほんとは土へんに延。
†牘の字、ほんとは右側が賣でなく戸だれに甫。
三十の輻*一轂*を共にす。
其の无に當たりて車の用有り。
埴(つち)を延†*して以て器を爲る、其の无に當たりて器の用有り。
戸牘†*を鑿ちて室を爲る、其の无に當たりて室の用有り。
故に有の以て利たるは、无の以て用を爲せばなり。
*輻、ふく、車の矢。
*轂、こく、こしき。
*延†、せん、ねやす(水を加えてこねる)。
*戸牘†、こいう、戸口や窓。
十二
五色令人目盲、五音令人耳聾、五味令人口爽、馳騁畋獵、令人心發狂、難得之貨、令人行妨、是以聖人、爲腹不爲目、故去彼取此、
五色は人の目をして盲ならしめ、五音は人の耳をして聾ならしめ、五味は人の口をして爽(たが)はしめ、馳聘田獵*は人の心をして狂を發せしめ、得難きの貨は人の行なひをして妨げしむ。
是を以て聖人は腹を爲して目を爲さず。
故に彼を去りて此を取る。
*馳聘田獵、ちていでんれふ、乗馬・乗車・狩猟。
十三
寵辱若驚、貴大患若身、何謂寵辱若驚、寵爲上、辱爲下、得之若驚、失之若驚、是謂寵辱若驚、何謂貴大患若身、吾所以有大患者、爲吾有身、及吾无身、吾有何患、故貴以身爲天下、若可托天下、愛以身爲天下、若可寄天下、
寵辱には驚くがごとし、大患*を貴ぶこと身のごとくすればなり。
何をか寵辱には驚くがごとしと謂ふ。
寵を上と爲し辱を下と爲し、之を得て驚くがごとく、之を失ひて驚くがごとし。
是を寵辱には驚くがごとしと謂ふ。
何をか大患を貴ぶこと身のごとしと謂ふ。
吾れに大患有る所以の者は、吾れに身有るが爲なり。
吾れに身无きに及べば、吾れに何の患ひか有らむ。
故に*身を以てするを天下を爲むるより貴べば、若(すなは)ち天下を託すべく、身を以てするを天下を爲むるより愛すれば、若ち天下を寄すべし。
*大患、たいくわん、名誉貨財。
*故に……、莊子在宥篇に「故貴以身於爲天下、則可以托天下、愛以身於爲天下、則可以寄天下、」とあるのに拠って読む。
十四
視之不見、名曰夷、聽之不聞、名曰希、搏之不得、名曰微、此三者不可致詰、故混而爲一、其上不皦、其下不昧、縄縄不可名、復歸於无物、是謂无状之状、无物之象、是謂惚恍、迎之不見其首、随之不見其後、執古之道、以御今之有、能知古始、是謂道紀、
之を視れども見えず、名づけて夷*と曰ふ。
之を聽けども聞えず、名づけて希*と曰ふ。
之を搏(とら)ふるも得ず、名づけて微と曰ふ。
この三者は詰*を致すべからず、故(もと)より混じて一と爲る。
其の上は皦*ならず、其の下は昧*ならず。
繩繩*として名づくべからず。
无物に復歸す。
是を无状の状、无物の象と謂ひ、是を惚恍*と謂ふ。
之を迎へて其の首(かうべ)を見ず、之に随ひて其の後(しりへ)を見ず。
古の道を執りて、以て今の有を御すれば、能く古始を知る。
是を道紀*と謂ふ。
*夷、い、形の無いもの。
*希、き、音の無いもの。
*詰、きつ、窮め極む。
*皦、けう、あきらか。
*昧、まい、くらい。
*繩繩、じようじよう、おぼろげではっきりしない。
*惚恍、こつくわう、恍惚。
*道紀、だうき、道の中心。
十五
古之善爲道者、微妙玄通、深不可識、夫唯不可識、故強爲之容、豫兮若冬渉川、猶兮若畏四鄰、儼兮其若客、渙兮若冰之將釈、敦兮其若樸、曠兮其若谷、混兮其若濁、孰能濁以靜之徐淸、孰能安以動之徐生、保此道者、不欲盈、夫唯不欲盈、故能蔽而新成、
古の善く道を爲す者は、微妙玄通にして、深くして識るべからず。
夫れ唯だ識るべからず。
故に強ひて之が容を爲さば、豫兮*として冬に川を渉るがごとく、猶兮*として四鄰を畏るゝがごとく、儼兮*として其れ客のごとく、渙兮*として氷の將に釋けむとするがごとく、敦兮*として其れ樸(あらき)のごとく、曠兮*として其れ谷のごとく、混兮として其れ濁れるがごとし。
孰か能く濁りて以て之を靜かにし徐ろに淸まん。
孰か能く安かにして以て之を動かし徐ろに生ぜん。
此の道を保つ者は盈つるを欲せず。
夫れ唯だ盈たず、故に能く蔽(やぶ)れて而も新たに成る。
*豫兮、よけい、おずおず。
*猶兮、いうけい、ぐずぐず。
*儼兮、げんけい、威儀を正したさま。
*渙兮、くわんけい、こだわりのないさま。
*敦兮、とんけい、飾りの無いさま。
*曠兮、くわうけい、ひろびろ。
十六
致虚極、守靜篤、萬物竝作、吾以觀復、夫物芸芸、各復歸其根、歸根曰靜、是謂復命、復命曰常、知常曰明、不知常、妄作凶、知常容、容乃公、公乃王、王乃天、天乃道、道乃久、沒身不殆、
虚を至すこと極まり、靜を守ること篤し。
萬物は竝び作るも、吾れは以て復るを觀る。
夫れ物は芸芸(うんうん)たる、各々其の根に復歸す。
根に歸るを靜と曰ひ、是を命に復すと曰ふ。
命に復するを常と曰ふ。
常を知るを明と曰ふ。
常を知らざれば妄作して凶なり。
常を知れば容*なり。
容は乃ち公なり、公は乃ち王なり、王は乃ち天なり、天は乃ち道なり、道は乃ち久し。
身を沒するまで殆ふからず。
*容、よう、包容しないものがない。
十七
太上下知有之、其次親而譽之、其次畏之、其次侮之、信不足、焉有不信、悠兮其貴言、功成事遂、百姓皆謂我自然、
太上は下之有るを知る。
其の次は親しみて之を譽む。
其の次は之を畏る。
其の次は之を侮る。
信足らざれば、焉(すなは)ち信ざられざる有り。
悠兮*として其れ言を貴(おも)くすれば、功成り事遂げて、百姓皆な我を自然と謂ふ。
*悠兮、いうけい、無関心なさま。
十八
大道廢、有仁義、智慧出、有大僞、六親不和、有孝慈、國家昏亂、有貞臣、
大道廢れて仁義有り。
智慧出でゝ大僞有り。
六親和せずして孝慈有り。
國家昏亂して貞臣有り。
十九
絶聖棄智、民利百倍、絶仁棄義、民復孝慈、絶巧棄利、盗賊无有、此三者、以爲文不足、故令有所屬、見素抱樸、少私寡欲、
聖を絶ち智を棄つれば、民の利百倍す。
仁を絶ち義を棄つれば、民孝慈に復す。
巧を絶ち利を棄つれば、盗賊有る无し。
此の三者は*以て文と爲すに足らず、故に屬(つ)ぐ所有らしむ。
素を見(あらは)し樸を抱き、私を少くし欲を寡くす。
*此の三者は……、この三つでは言葉不足だからさらに続けよう。
二十
絶學无憂、唯之與阿、相去幾何、善之與惡、相去何若、人之所畏、不可不畏、荒兮其未央哉、衆人煕煕、如享太牢、如春登臺、我獨泊兮其未兆、如嬰兒之未孩、罍†罍†兮若无所歸、衆人皆有餘、而我獨若遺、我愚人之心也哉、沌沌兮、俗人昭昭、我獨昏昏、俗人察察、我獨悶悶、澹兮其若海、飃†兮若无止、衆人皆有以、而我獨頑似鄙、我獨異於人、而貴食母、
†罍の字、ほんとは下が缶でなく糸で左に人べん。
†飃の字、ほんとは右上が票でなく樛の旁。
學を絶てば憂ひ无し。
唯(ゐ)と阿(あ)と相ひ去ること幾何ぞ。
善と惡と相ひ去ること何若。
人の畏るゝ所は畏れざるべからざるも、荒兮*として其れ未だ央(つ)きざるかな。
衆人煕煕*として大牢*を享くるがごとく、春に臺(うてな)に登るがごとし。
我獨り泊兮*として其れ未だ兆(きざ)さず、嬰兒の未だ孩*せざるがごとし。
罍†罍†兮*として歸する所无きがごとし。
衆人皆な餘り有り、而して我れ燭り遺(うしな)へるがごとし。
我は愚人の心なるかな。
沌沌兮*たり。
俗人は昭昭*たり、我獨り昏昏*たり。
俗人は察察*たり、我れ獨り悶悶*たり。
澹兮*として其れ海のごとく、飃†兮*として止まる无きがごとし。
衆人は皆な以てする有りて、我獨り頑にして*鄙なり。
我れは獨り人に異なり、而して食母(しよくぼ)を貴ぶ。
*荒兮、くわうけい、漠然。
*煕煕、きき、うきうき。
*大牢、たいらう、御馳走。
*泊兮、はくけい、静かなさま。
*孩、がい、幼児の笑い。
*罍†罍†兮、るゐるゐけい、疲れたさま。
*沌沌兮*、とんとんけい、渾沌。
*昭昭、せうせう、光り輝く。
*昏昏、こんこん、暗い。
*察察、さつさつ、目先が利く。
*悶悶、もんもん、何にも分からず知らない。
*澹兮、たんけい、ゆらゆら。
*飃†兮、りうけい、風の吹くさま。
*似=而。
二十一
孔德之容、惟道是從、道之爲物、惟恍惟惚、恍兮惚兮、其中有物、惚兮恍兮、其中有象、窈兮冥兮、其中有精、其精甚眞、其中有信、自今及古、其名不去、以閲衆甫、吾何以知衆甫之然哉、以此、
孔德*の容*は惟だ道に是れ從ふ。
道の物たる、惟れ恍たり惟れ惚たり、恍兮たり惚兮たり、其の中に物有り。
惚兮たり恍兮たり、其の中に象*有り。
窈兮*たり冥兮*たり、其の中に精有り。
其の精甚だ眞なり。
其の中に信有り。
今より古に及ぶまで、其の名去らず。
以て衆甫*を閲*す。
吾れ何を以て衆甫の然るを知る。
此を以てなり。
*孔德、こうとく、大きな徳(の人)。
*容、よう、ようす。
*象、しやう、形。
*窈兮、えうけい、奥深い。
*冥兮、めいけい、かくれる。
*衆甫、しうほ、もろもろの始め。
*閲、えつ、統括する。
二十二
企者不立、跨者不行、自見者不明、自是者不彰、自伐者无功、自矜者不長、其在道也、曰餘食贅行、物或惡之、故有道者不處、
企(つまだ)つ者は*立たず、跨(また)ぐ者は行かず。
自ら見はす者は明かならず、自ら是とする者は彰はれず。
自ら伐(ほこ)る*者は功无く、自ら矜(ほこ)る*者は長からず。
其の道に在るや餘食贅行*と曰ふ。
物或ひは之を惡む、故に有道者は處らず。
*企者……、つま先では(長く)立てない、大股では(遠く)行けない。
*伐る、自慢する。
*矜る、自負する。
*餘食贅行、よしよくぜいかう、余計な食べ物や無用な行い。
二十三
曲則全、枉則直、窪則盈、敝則新、少則得、多則惑、是以聖人抱一、爲天下式、不自見故明、不自是故彰、不自伐故有功、不自矜故長、夫惟不爭、故天下莫能與之爭、古之所謂曲則全者、豈虚言哉、誠全而歸之、
曲なれば則ち全し。
枉(まが)れば則ち直し。
窪めば則ち盈つ。
敝(やぶ)るれば則ち新たなり。
少なれば則ち得、多なれば則ち惑ふ。
是を以て聖人は一を抱きて天下の式(のり)と爲る。
自ら見はさず、故に明かなり。
自ら是とせず、故に彰はる。
自ら伐らず、故に功有り。
自ら矜らず、故に長し。
夫れ惟だ爭はず、故に天下能く之と爭ふ莫し。
古の所謂曲なれば則ち全しとは、豈に虚言ならむや。
誠に全くして之を歸す。
二十四
希言自然、故飄風不終朝、驟雨不終日、孰爲此者、天地、天地尚不能久、而況於人乎、故從事於道者、同於道、德者、同於德、失者、同於失、同於道者、道亦樂得之、同於德者、德亦樂得之、同於失者、失亦樂得之、信不足焉、有不信、
希言は*自然なり。
故に飄風*は朝を終へず、驟雨*は日を終へず。
孰か此を爲す者ぞ、天地なり。
天地すら尚ほ久しくする能はず、而るを況んや人に於いてをや。
故に道に從事する者は道に同じ、德は德に同じ、失は失に同ず。
道に同ずる者は道も亦た之を得るを樂しみ、德に同ずる者は德も亦た之を得るを樂しみ、失に同ずる者は失も亦た之を得るを樂しむ。
信足らざれば、信ぜられざる有り。
*希言は……、言葉をまれにしか用いないのが自然である。
*飄風、へうふう、暴風。
*驟雨、しうう、豪雨。
二十五
有物混成、先天地生、寂兮寥兮、獨立不改、周行而不殆、可以爲天下之母、吾不知其名、字之曰道、強爲之名曰大、大曰逝、逝曰遠、遠曰反、故道大、天大、地大、王亦大、域中有四大、而王居其一、人法地、地法天、天法道、道法自然、
物有り混成し、天地に先んじて生ず。
寂兮*たり寥兮*たり。
獨立して改(かは)らず、周行して殆(とど)まらず。
以て天下の母と爲すべし。
吾れ其の名を知らず。
之に字(あざな)して道と曰ひ、強ひて之が名を爲して大と曰ふ。
大を逝*と曰ひ、逝を遠と曰ひ、遠を反*と曰ふ。
故に道は大なり、天は大なり、地は大なり、王も亦た大なり。
域中に四大有り、而して王は其の一に居る。
人は地に法(のつと)り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る。
*寂兮、せきけい、音の無いさま。
*寥兮、れうけい、形の無いさま。
*逝、せい、いってしまう。
*反、はん、帰る。
二十六
重爲輕根、靜爲躁君、是以君子、終日行、不離輜重、雖有榮觀、燕處超然、奈何萬乗之主、而以身輕天下、輕則失本、躁則失君、
重きは輕きの根たり、靜かなるは躁がしきの君たり。
是を以て君子は終日行きて輜重*を離れず、榮觀*有りと雖も燕處*して超然たり。
奈何ぞ萬乗の主にして身を以て天下より輕しとせんや。
輕ければ則ち本を失ひ、躁がしければ則ち君を失ふ。
*輜重、しちよう、旅行の必要物を載せた荷馬車。
*榮觀、えいくわん、美しく壮大な眺め。
*燕處、えんしよ、くつろぐ。
二十七
善行无轍迹、善言无瑕謫、善數不用籌策、善閉无關建†、而不可開、善結无縄約、而不可解、是以聖人、常善救人、故无棄人、常善救物、故无棄物、是謂襲明、故善人者、不善人之師、不善人者、善人之資、不貴其師、不愛其資、雖智大迷、是謂要妙、
†建の字、ほんとは木へんに建。
善く行くものは轍迹*无し。
善く言ふものは瑕謫*无し。
善く數ふるものは籌策*を用ひず。
善く閉ざすものは關建†*无くして而も開くべからず。
善く結ぶものは繩約*无くして而も解くべからず。
是を以て聖人は常に善く人を救ふ、故に人を棄つる无し。
常に善く物を救ふ、故に物を棄つる无なし。
是を襲明*と謂ふ。
故に善人は不善人の師なり、不善人は善人の資*なり。
其の師を貴ばず其の資を愛せざれば、智ありと雖も大いに迷ふ。
是を要妙*と謂ふ。
*轍迹、てつせき、あとかた。
*瑕謫、かたく、きずあと。
*籌策、ちうさく、数とりの棒。
*關建†、くわんけん、かんぬきと鍵。
*繩約、じようやく、つなと紐。
*襲明、しふめい、明に因る。
*資、し、たすけ。
*要妙、えうめう、隠れた真理。
二十八
知其雄、守其雌、爲天下谿、爲天下谿、常德不離、復歸於嬰兒、知其白、守其黑、爲天下式、爲天下式、常德不弋†、復歸於无極、知其榮、守其辱、爲天下谷、爲天下谷、常德乃足、復歸於樸、樸散、則爲器、聖人用之、則爲官長、故大制不割、
†弋の字、ほんとは弋の中に心。
其の雄を知りて、其の雌を守れば、天下の谿*と爲る。
天下の谿と爲れば、常の德は離れず、嬰兒に復歸す。
其の白を知りて、其の黑を守れば、天下の式と爲る。
天下の式と爲れば、常の德は弋†(たが)はず、无極に復歸す。
其の榮を知りて、其の辱を守れば、天下の谷*と爲る。
天下の谷と爲れば、常の德は乃ち足り、樸*に復歸す。
樸は散ずれば則ち器と爲る。
聖人は之を用ひて、則ち官の長と爲す。
故に大制*は割(さ)かず。
*谿、たに、谷間。
*谷、たに、谷川。
*樸、ぼく、あらき。
*制、せい、切る。
二十九
將欲取天下而爲之、吾見其不得已、天下神器、不可爲也、不可執也、爲者敗之、執者失之、凡物或行或随、或歔或吹、或強或羸、或培或忝†、是以聖人去甚、去奢、去泰、
†忝の字、ほんとは上が夭でなく隋の下に八。
將欲(まさ)に天下を取らんとして之を爲すは、吾れ其の得ざるを見るのみ。
天下は神器なり。
爲すべからず、執るべからず。
爲す者は之を敗り、執る者は之を失ふ。
凡そ物は、或ひは行き或ひは随ふ。
或ひは歔*し或ひは吹く。
或ひは強く或ひは羸(よわ)し。
或ひは培(やしな)ひ或ひは忝†(こぼ)つ。
是を以て聖人は甚しきを去り、奢を去り、泰*を去る。
*歔、きよ、ゆるやかに息を吐く。
*泰、たい、傲慢。
三十
以道佐人主者、不以兵強天下、其事好還、師之所處、荊棘生焉、大軍之後、必有凶年、善者果而已、不以取強、果而勿矜、果而勿伐、果而勿驕、果而不得已、是謂果而勿強、物壯則老、是謂不道、不道早已、
道を以て人主を佐くる者は、兵を以て天下に強ひず。
其の事還るを好む*。
師*の處る所は、荊棘*焉に生じ、大軍の後は、必ず凶年有り。
善者は果(勝)つのみ。
以て強ひるを取らず。
果ちて矜る勿く、果ちて伐る勿く、果ちて驕る勿く、果ちて已むを得ずとす。
是れを果ちて強ひる勿しと謂ふ。
物は壯んなれば則ち老ゆ。
是を不道*と謂ふ。
不道は早く已む。
*還るを好む、反動が起こる。
*師、し、軍隊。
*荊棘、けいきよく、いばらやとげの木。
*不道、ふだう。
非道。
三十一
夫兵者不祥之器、物或惡之、故有道者不處、君子居則貴左、用兵則貴右、兵者不祥之器、非君子之器、不得已而用之、恬淡爲上、勝而不美、而美之者、是樂殺人、夫樂殺人者、則不可以得志於天下矣、吉事尚左、凶事尚右、偏將軍居左、上將軍居右、言以喪禮處之、殺人之衆、以悲哀泣之、戰勝、以喪禮處之、
夫れ兵は不祥の器にして、物或ひは之を惡む、故に有道者は處らず。
君子居れば*則ち左を貴び、兵を用ふれば則ち右を貴ぶ。
兵は不祥の器にして、君子の器に非らず、已むを得ずして之を用ふれば、恬淡を上と爲す。
勝ちて而も美ならず。
而るに之を美とする者は、是れ人を殺すを樂しむなり。
夫れ人を殺すを樂しむ者は、則ち以て志を天下に得べからず。
吉事は左を尚び、凶事は右を尚ぶ。
偏將軍*は左に居り、上將軍*は右に居る。
言ふこゝろは喪禮を以て之に處るなり。
人を殺すこと衆きには、悲哀を以て之に泣き、戰ひ勝てば、喪禮を以て之に處る。
*居れば、平常。
*偏將軍、へんしやうぐん、副将。
*上將軍、じやうしやうぐん、大将。
三十二
道常无名、樸雖小、天下莫能臣也、侯王若能守之、萬物將自賓、天地相合、以降甘露、民莫之令、而自均、始制有名、名亦既有、夫亦將知止、知止所以不殆、譬道之在天下、猶川谷之於江海
道は常に无名なり。
樸*は小なりと雖も、天下に能く臣とする莫し。
侯王若し能く之を守らば、萬物將に自ら賓*せんとす。
天地相ひ合して、以て甘露を降し、民は之に令する莫くして自ら均(とゝの)ふ。
始めて制*して名有り。
名亦た既に有れば、夫れ亦た將に止まるを知らんとす。
止まるを知るは、殆ふからざる所以なり。
譬へば道の*天下に在るは、猶ほ川谷の江海に於けるがごとし。
*賓、ひん、したがう。
*制、せい、二十八参照。
*道の……、倒文と思われる。
三十三
知人者智、自知者明、勝人