似て非なる物语4056.docx

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似て非なる物语4056

あの時

<40>

 

 全てはあの時――朱尽(あけつき)崩壊の時から始まった。

 

 

 北方最果てにあるラヴェイス群島とその岸辺にあるラヴァの町から成る朱尽領は、魔族領で唯一魔王に所有権のない土地であった。

 彼らが戦うのは魔族の宿敵、人間ではない。

 世界に死と破滅を齎す永久(とこしえ)の存在――「烈(れつ)」の世界への侵入をあらゆる犠牲を払ってでも止める事。

それが魔族の流刑地とも言うべき魔王軍朱尽(あけつき)に課せられた唯一にして絶対の使命であった。

 その為、「烈」を食い止める名目で餌となる人間を家畜として所有する権利が与えられていた。

 最も死に近い最果ての過酷な流刑地。

そこは、魔族にとっても人間にとっても地獄と言って過言ではない場所であった。

 その地獄を、楽園へと変えた一人の男が居る。

 男の名は魔王軍朱尽軍大将、ティノ=グランディス。

 彼は家畜の収容所でしかなかったラヴァに町を作り、国を追われあるいは事情によって行き場を失った人間たちを居住させた。

 そして「烈」は人間を餌にせずとも召魂で食い止められる事を証明してみせたのだ。

 朱尽は世界でただ一ヶ所、魔族と人間が共存共栄する「地獄の楽園」と呼ばれるようになっていた。

 だがそれは薄氷の上での安寧でしかなかった。

 それを最も自覚していたのは、ティノ=グランディス自身だ。

 魔族と人間の共存。

それは、創造世界ヴァルハラントを支配する絶対神ユアンノの意志「理」(ことわり)とは真逆の思想であったからだ。

 その時は程なくやって来た。

 預言者グレンカーナが絶対神ユアンノの「理」を世界に発した。

 ティノ=グランディスの不可避の死は、そうして決定された。

 

 

『来たる夜宵月(やよいづき)14日、魔王ゲシュタルト=フォンロッソは、ユーソリス王国第三王子キルク=リアナ=ユーソリスと3人の仲間たちによって討ちとられる。

 翌夜宵月15日、新代魔王ゼラス=ギアが即位する。

 夜宵月19日を待たずして、朱尽軍大将ティノ=グランディスに神罰が下るであろう』

「神罰ねえ」

「ってのん気に感心しとる場合やないやろ!

 朱尽本部の軍大将執務室にて、朱尽軍次将ニーケット=ファルシオンは声を荒げた。

「どうするんや?

 このまま、泣き寝入りするつもりはないんやろ?

「それより、領民の避難は無事進んでるのか?

 厳しい口調で詰め寄ってくる軍次将の言葉を聞き流すように片手をひらひらと振りながら、軍大将ティノ=グランディスは問いかけた。

「そこはカイスが上手くやっとる」

「アデュッサ王国が受け入れを快諾したらしいな。

噂の王弟はどこまでカイスに甘いのやら。

ま、気持ちは分からんでもないが」

「ティノ」

「ああ、ついでにシシリアが暴走しないようにくれぐれも……」

「ティノ!

 だんっとニーケットは荒々しく机を両手で叩いた。

「神罰を、回避するで」

 射殺す視線で、ニーケットはティノを凝視した。

逸らせぬその強さに、ティノは息をついた。

「駄目だ」

「何でや!

「俺はユアンノの怒りを買っている。

それ故の神罰だ。

それを回避したとなれば、手助けした者に怒りは飛び火する。

お前は自分を守る事ができるのか?

「それは……」

 唇をきつく噛み締め、ニーケットは僅かに後方に下がって双眸を伏せた。

「おいらは確かに攻撃にも防御にも無力や。

死にさらされるんも怖い。

そやけど、おいらには、ティノを助ける力があるんや。

今ここで使わなかったら、絶対おいらは後悔する」

「お前を巻き込んだら、今度は俺が後悔する」

「放っておいたら死ぬんやで!

「手助けすればお前が死ぬ」

「ティノ!

 拳を握り締め、ニーケットはティノの頬を殴り飛ばした。

 避けるだけの動体視力はあったが、ティノは甘んじてその拳を受けた。

「ふざけるなや。

おいらも、カイスも、シシリアも、誰もが皆、ティノを助けたい思うてるんやで」

「シシリアは微妙だなー」

「……それはおいらも認めるけど。

って、話を逸らすなや」

 ニーケットは机に片膝を乗り上げ、襟首を掴み上げた。

「おいらたちは、ティノに生きていて欲しいんや」

 真摯に向けられる双眸を、ティノも真っ直ぐに受け止めた。

 苦味を噛み締めるように唇を歪めて笑い、ティノは首を横に振った。

「ありがとう、ニーケット。

だけど……駄目だ。

分かってくれ」

「ティノ!

「もう、決めた事だ」

 眼鏡の奥にあるニーケットの双眸から、透明な雫が溢れ出した。

 乱暴に自らの片腕で拭いながら、ニーケットは背を向けた。

「知らん」

 震える声でそれだけ言って、ニーケットは駆け出した。

 扉が閉まる音を、ティノは背中で聞いていた。

 静かに双眸を閉じた。

 流れ行く風が窓を揺らしていく。

木々のざわめきに混じる雑音に暫し耳を傾けていた。

 心に宿る思いはない。

もう何もなかった。

「ティノ様」

 不意に声が聞こえ、ティノは瞳を開いて振り返った。

 扉が薄く開き、瑠璃色の双眸が覗いていた。

「あまりニーケット様を苛めては駄目ですよ?

「俺が苛められてたような」

「嘘はいけませんね」

「即答かい。

その心は?

「泣きじゃくるニーケット様と、ふてぶてしいティノ様の顔を見比べていたら、自然に答えは出るものです」

「俺は心で泣く男なんだ」

「妄想の涙腺が弱いんですね」

「……何だか凄い変態みたいに聞こえるんだが」

 がっくりとティノは肩を落とした。

 扉を開いて部屋へと入って来た朱尽居候兼お茶くみ担当のカイスは、手に持っていた盆の上のコップをティノへと手渡した。

 コップの中には濃い色の液体が揺れていた。

 香り立つココアの湯気をたっぷり吸い込んでからコップに口をつける。

「ニーケットの様子はどうだ?

「ご自分で確認されてはいかがでしょうか?

「怒ってるだろ、実は結構」

「ええとっても」

 微笑を湛えるカイスの美貌を上目遣いに眺めながら、ココアを一口口にする。

 甘い芳香が口の中に広がり、ティノは頬を綻ばせた。

「カイス」

「はい?

「お前もだ」

 盆を胸の前で持ちながら、カイスは瞳を瞬かせて首を傾けた。

「何がですか?

「俺を助けようなんて思うな」

「自力でどうにかなさるんですか?

 カイスの問いに、ティノは思考に沈む。

 何度も何度も考えて来た。

 方法ならある。

 下された絶対の死に抗う術は、幾つでも思いつく。

 他者の手を借りるならば、だ。

 だがどれも、親しき者に魔の手が及ぶ危険を孕んでいた。

「神を殺しましょうか。

ティノ様」

「さらっと物騒な事を言うな」

「私にとっては遠くの神より近くのティノ様ですから」

 ティノは唇を緩めた。

 両手で包むコップがとても温かく感じられる。

「申し訳ありません、ティノ様」

 急に謝罪の言葉が聞こえ、ティノは訝しげに顔を上げた。

 形のよい眉を歪め、カイスはティノを見据えていた。

「ご命令、聞けないみたいです」

「……」

「でも、最後までお側に居させてください」

 助けるなと言われても自分はきっと助けてしまう。

 けれど遠ざけないで欲しいと、カイスは言っているのだ。

 カイスにもティノを不可避の死から守る力がある。

 カイスの召魂(よびたま)の能力「絶対切断」を使えば、神罰からティノを切り離せる。

 もちろん非常識の話ではあるが、多分カイスであればやってのけられるだろう。

 だが問題がある。

カイスは自身に対する防御意識が著しく欠如しているのだ。

 カイスに神罰が向けられたとしたら――背筋を流れる冷たい汗を知覚し、ティノは息をついた。

 ずきりずきりと、今更ニーケットに殴られた頬が鈍痛を発し始めた。

頬に手をあてると僅かに熱をもっているようだ。

「……痛い」

 本当に痛かったのは、そこではなかった。

 愛されている事を知っている。

 生きて欲しいと、望まれている事も知っている。

 自分が死ねば、悲しむだろう。

 けれど悲しみはいつか癒される。

「癒されませんよ」

 その言葉に向けられたティノの視線を受けて、カイスは微笑を零した。

「泣き死なせていただきますから、そのおつもりで」

「脅迫か?

「はい。

ちなみに私の首から上はシシリアの所有物ですから。

それが壊されたと知れば、暴走しちゃうかもしれませんね」

「暴走しても、その頃俺は死んでる予定なんだが」

「原因物質が死んだ程度で止まるシシリアではありません」

「……」

 腕を組んでティノは唸った。

その光景が容易に想像できてしまったからだ。

<41>

 

 階段を下りて1階へとたどり着くと、会議室に明かりが灯っていた。

 扉から中を覗き込むと、朱尽軍本部要員シシリア=ルシャナダークと軍隊長が話し込んでいた。

「シシリア」

 声をかける前にカイスの姿に気づいたシシリアが顔を上げて近づいて来た。

「ぼんくらはどうした?

「拗ねてますね」

「あの莫迦者。

辛気臭いにも程がある。

成敗してくれるわ」

 獰猛な光を宿す双眸を細めて歩き出したシシリアの背中を、カイスはひらひらと手を振って見送った。

「お手柔らかに」

 止める気はない。

今の頑なな状態のティノを動かせる者は希少であり、ティノにとってもいい薬になるだろうと楽観視しているのだ。

「カイスさん」

 名を呼ばれ、視線を会議室へと戻し中へと足を踏み入れた。

 第一部隊軍隊長のノラン=デュッセが眉間に皺を寄せた表情でカイスを見据えていた。

「ティノ軍大将はいかがなされるおつもりか」

「死ぬ気まんまんみたいです」

「……」

「ニーケット様も私も、絶対阻止の意志は変わりませんから。

皆さんはお心安らかに」

 ノランは苦笑を零してカイスの肩に手を置いた。

「ところで、朱尽領の周囲を囲っている魔王軍の様子はいかがでしたか?

「今の所はシシリア本員の「睨み」が効いて、静観の様相だ。

恐らくは軍大将の死を待っているのだろう」

 カイスは口元を引き締めた。

 現在、朱尽領の周囲は魔王軍によって完全に包囲網が敷かれていた。

 朱尽は軍大将の交替と共に1度滅びる。

それは法によって定められていた。

 その為、ティノの死と共に魔王軍は朱尽領へと攻め入り、軍隊員約30名及び残存する領民を殺害し、全てを灰燼に帰すつもりなのだ。

「領民たちの避難は、どのようになっている?

「大丈夫ですよ。

先程完了いたしました」

「……魔王軍の包囲網はどうやって抜けられたのだ?

「道がなかったので新たに開通させていただきました」

 両手を合わせてにっこりと微笑するカイスの発言に、軍隊長は賢明にも沈黙を返した。

「本来は恐怖に怯えなければならない状況なのだが、こうして気楽にしていられるのは、シシリア本員や、貴方が泰然としているからだな」

「魔王軍側も、シシリアが居る以上下手に手出しできませんからね。

後で拝んでおきましょう。

どこぞの神様よりご利益が期待できますよ」

 何しろ魔族最強と張る実力者なのだから。

 カイスの言葉に、ノランは「違いない」と大笑した。

「お、丁度いい所におった。

カイス、ちょっといいか?

「ニーケット様」

 新たに会議室に顔を覗かせたのは軍次将、ニーケット=ファルシオンだ。

 目じりに乾いた涙の跡が残っている。

「頼みたい事があるんや」

 どごごおおおん

 瞬間、建物全体が揺れ動いた。

最上階付近が震源地のようだが、誰も眉一つ動かしていないのは事態を承知しているからだ。

 ニーケットは天井を見上げて吐息をついた。

「朱尽本部が壊れないとええんやけど」

「奇跡を期待してみます?

「その領域なんか。

平穏無事は」

「何しろシシリアですから」

 指を立てて楽しそうに語るカイスに、ニーケットは肩を落とした。

 

 

「神の目から、隠してもらいたいもんがあるんや」

 ニーケットの自室へと訪れたカイスに対して、ニーケットは険しい表情を浮かべたまま口を開いた。

「おいらの「朱雀」(あけすずめ)の能力は「完全修復」。

如何なる欠損も元の形状へと戻す事を可能としとるのは知っとるな?

 カイスは無言のままに頷きを返した。

「腕が欠ければ腕を戻す。

足が欠けたら足を戻す。

そこでや。

この欠けた部分をおいらは戻そうと思っとる」

 そう言って、ニーケットはハンカチを取り出した。

 二つ折りになっていたそれを丁寧に開いていく。

 カイスが中を覗き込むと、そこには1本の髪の毛が置かれていた。

「これは……ティノ様の?

 ニーケットは無言のままに頷いた。

「さっき、殴ったついでに抜いて来たんや」

「ティノ様にとっては踏んだり蹴ったりですね」

「苛められたから苛め返しとるだけや」

 視線を合わせ、二人は共に微笑した。

「抜け毛から修復するとなると、ティノ様が一時的に二人になる、という事ですね」

「もちろん魂は本体に入ったままやから、言ってみればティノの人形ができるだけやけどな。

魔族は人間と異なり魂が丈夫に出来とる。

肉体の死と魂の死には僅かながらタイムラグがあるんや。

神罰発動直後に、ティノの魂を新しい体の方へと入れる事ができたなら……」

 ニーケットの言葉に、カイスは頷いた。

「最後はティノ様の御意志によるという事ですね」

「そやな。

魂だけになってもこっちの体には入りたくない、と言われたらそれまでやし。

それにな、おいらの力にも一つだけ欠点があるんや」

 そう呟いて、ニーケットは双眸を落とした。

視線の先にはハンカチの上に乗ったままの一本の髪。

くすんだ金髪のような鶸色(ひわいろ)のそれを見下ろし、息をついた。

「魔族の身体構造上の問題らしいのやけど。

半分以上欠損した場合、如何なる修復を施してもその体は人間になってしまうのやそうや」

「ティノ様が、人間に?

 ニーケットは首肯を返した。

唇を引き結び、顔を上げてカイスを見据える。

「時に支配され、いつかは死にいく運命(さだめ)となるんは、魔族として生きて来たティノにとってあるいは過酷な事かもしれへん。

そやけど、たった一時でも、一瞬でもええ。

長く生きて欲しいと、おいらは思ってる」

「やはり私が「理」を切断するべきではないでしょうか?

「最終的に神を殺すなら、それも一つの方法やろうけど。

ティノ1人の為に世界を危機に陥れる訳にはいかん。

――それでもええとおいらは思うけどな。

ティノは納得せえへんやろ」

 絶対神ユアンノは常に自らが創造した世界、ヴァルハラントを眺めている。

 その目から永遠に「理」逃れを隠し続ける事は不可能に近い。

「そないなものを作っとると分かったら、「理」逃れは明白や。

どんな邪魔が入るかも分からへんし。

ティノに神罰が下るまででええ。

カイス、ティノの新しい器を、神の視界から切り離しておいてもらえへんか?

 当然その頼みは非常識極まりない事であった。

 だが、カイスにはそれが可能だとニーケットは知っていたし、カイス自身も出来る事だと自覚していた。

 承諾の意志を返す為にカイスは頷きを返した。

「ティノ様へは?

「物が出来てからおいらが話す。

最後の決断はティノに任せなあかんけど――おいらたちは、生きて欲しいと願ってるって事をちゃんと伝えて理解してもらわなな」

 口元を引き結び、鼻の上に乗った眼鏡を指先で押し上げたニーケットの双眸には確かな決意が宿っていた。

 その時、部屋の扉がノックされた。

「なんや?

「失礼します、軍次将」

 開いた扉の先には、第二部隊軍隊長のセイキッドの敬礼した姿があった。

「魔王軍より使者の方が参られました」

「使者?

 宣戦布告でもしに来たんか?

「それが……」

 困惑を走らせたセイキッドの表情に訝しげな思いを抱きつつ、ニーケットは立ち上がった。

 刹那、セイキッドの背後から現れた姿に、唖然と口を開いたまま硬直した。

「お久しぶりね、シオン」

 魔王軍統帥本部参謀長、実質魔王軍を支配する存在、アギタ=セスティアナ元帥が底の見えない微笑を口元に湛えながら、そこには立っていた。

<42>

 

「さすがだな」

 応接室にて、受け取った書類を一瞥したティノは感嘆の吐息を零した。

「魔族はただでさえ絶滅危惧種となっているのに、無用な血を流すつもりはないもの」

「お前の魔族に対する情の深さは信頼に値するものだ」

 アギタの言葉に、ティノは頷きをもって返した後、隣に腰掛けていたニーケットへとその書類を手渡した。

 その書類には、こう書かれていた。

 本日付をもって、魔王軍朱尽軍隊員三十余名、及び軍次将ニーケット=ファルシオン、軍本部要員シシリア=ルシャナダークはその任を解く。

同日付で魔王軍へと帰還し、新たな任に就かれるべし、と。

「朱尽軍隊員の中でも元々の罪が軽い者には新しい部署での仕事を用意してあるわ。

罪の重い者は新たな流刑地へと移動になるけれど、ここよりましな場所に配置される事は間違いないわね」

「一応「地獄」だからな、ここは」

 アギタの言葉に、ティノは微笑を返した。

 軍次将が息を詰めるのを視界の端で捕らえてから、ティノはアギタへと向き直った。

「命令、承諾した」

「待てやティノ!

 腰掛けていたソファーから立ち上がり、ニーケットはティノを見下ろして言った。

 その声は動揺で震えを刻んでいた。

唇を噛み締め、無意識に零しを握り締めるニーケットを見上げながら、ティノは双眸を緩めて言った。

「最後の1人が果てるまで徹底交戦するよりも、ずっとこれが最善だ。

分かってるだろう、ニーケット」

「……そやけど……」

 ティノの言葉が正論であると分かっている。

 これ以上ない程の提案であるという事も。

 朱尽の崩壊は軍大将の更迭をもって行われる。

だがティノはまだ解任されていない。

 それは恐らくアギタの指示によるものだったのだろう。

 朱尽崩壊の前に、軍隊員を皆異動させてしまえば、彼らを無碍に殺す必要もなくなる。

法の抜け穴を利用したのだ。

 もし、破壊神と名高いシシリアと世界最高の治癒能力を有するニーケットが結託して徹底抗戦の構えに入ったとしたならば、魔王軍側でも容易には朱尽を攻め落とす事はできなくなる。

被害は甚大なものとなるだろう。

 だからこそ、アギタは朱尽の戦力を無効化する為に、この書状を持参したのだ。

 事実上魔王軍を支配している参謀長と総大将、それに魔族の支配者たる新代魔王の署名を添えて。

「この命令の履行を確認する為に、朱尽軍隊員たちには本日中に魔王軍本城ドンファリオンへ帰還していただくわ」

「おいらは帰らへんで!

 アギタは口元に拳をあててクスリと軽やかに笑った。

「「有給休暇」が残っているでしょう?

「本当、抜け目ないなー。

アギタ参謀長。

軍隊員たちは事実上の人質か?

 軍隊員たちを本城で「保護」してしまえば、幾らシシリアやニーケットが残っても、徹底抗戦を選択する事はできない。

彼らの命が危機に晒されるからだ。

「言い方がえげつないわね。

破壊神へのお供えもの、とでも言いかえましょうか」

「……饅頭か」

「あら、美味しそう」

 ふふふっと色の異なる双眸を緩めてアギタは微笑した。

 ティノは肩から力を抜いた。

 

 アギタが去った後、ニーケットはティノへと一瞥を向けた。

「……本当に、ええんか?

「戦う先に、残るものは何もない。

全員が助かるなら、それが一番最良の選択肢だろう」

「ティノが死ぬやろ!

 悲鳴のように叫んだ言葉に、ティノは小さく苦笑を零して頷いた。

「そうだな」

 それは言った側にも、聞いた側にも、痛みを齎す言葉でしかなかった。

 

 軍隊員たちの動揺は激しかった。

 誰もが皆、戦う意志を心に宿していたからだ。

 怒る者、嘆く者、惑う者、誰もが困惑し、悲嘆にくれた。

 だが、ティノは残るという者全てに否定を返した。

「参謀長アギタ元帥の尽力を無に帰すつもりか?

 魔王軍の頂点に立つ彼女が、末端とも言うべき朱尽に対して骨を折ったのは、元同僚のニーケットが在籍していたというばかりではない。

 魔族を守る。

それはアギタ=セスティアナを突き動かす原点だからだ。

「ここに残り、命尽き果てるまで戦ったとしても、幸福を得る事はできない。

それは、朱尽に住まう者としての責務を放棄した事になる」

 ティノは軍隊員30余名を前に言った。

「幸せになれ。

それが朱尽の民全てに課せられた、唯一にして絶対に守られるべき義務だ」

 表情を和らげ、一人ひとりの肩に手を置いて、ティノは彼らの今までの労苦を労い、その出立を見送った。

 見送るティノの隣には軍次将ニーケット、お茶くみ担当カイス、そして……

「一つ疑問なんだが」

 半目になりながら、腕組みをして偉そうにふんぞり返って立っているシシリアへと視線を向けた。

「何でお前も残ってるんだ?

 自分には何の義理もないだろう。

彼女に限って最後まで一緒に居たいなどと健気な事を思うはずもない。

 案の定、シシリアは鼻先でせせら笑った。

「ぬしの無様な最期を見届けて、指差して笑ってやろうという腹積もりだ」

「……ありがたくて涙が出るよ」

 苦笑交じりにティノは息をついた。

 それはティノ=グランディスに神罰が下る前日、夜宵月17日の出来事であった。

 

 

 その夜、ティノは一晩中起きていた。

 付き添っていたのはカイスだ。

温かな湯気の立つ香茶を淹れて、ティノへと手渡した。

 軍大将の執務室の窓辺に立ち、ティノは外を眺めていた。

「カイス」

「はい?

「もう寝ろ」

「嫌です」

 きっぱりと返って来た否定に、ティノは肩を落とした。

「どうしてこう、言う事聞いてくれない奴ばっかり、俺の周囲には集まってくるんだ」

「ティノ様が無体な事をおっしゃるからですよ」

「睡眠は生物が生きていく上で必須のものだろうが」

「欲望に忠実なのが人間という生き物です。

私の顔も見たくない、というなら仮面を装着させていただきますが」

「ちなみにどんな仮面を準備してるんだ?

「子豚さんをこの間作ってみたのです。

シシリアには毛虫だって誤解されちゃいましたけど」

 毛虫と誤解するような子豚の想像を脳裏で巡らしつつ、ティノは数瞬で断念した。

「とりあえずやめてくれ」

 精神衛生上、仮面装着は却下しておいた。

「残念ですね。

今度お部屋に飾っておきますから、ぜひ見学にいらしてください。

自信作なんです」

「だからお前の部屋は混沌(カオス)の様相を呈してるんだな」

「いつも綺麗に掃除してますよ?

「飾り物が破壊的だろうが」

「そう言えば熊さんの仮面も好評でしたね」

「ああ、あの二枚舌で目が三つある奴な……」

「調子に乗って作りすぎちゃったんです」

 思い出したら吐き気を覚えた。

どれだけ呪われた仮面なんだか、とティノは額を抱えた。

 緩慢に、氷河の流れのように時間が過ぎていく。

 こんな時が、ティノはとても大好きだった。

 明日、自分には神罰が下る。

 絶対神は、世界で生きる全ての者の心臓を握っている。

比喩ではなく事実としてだ。

それ故に思うままに望むままに命を潰す事ができるのだ。

 逃れる術はある。

だが、逃げる場所はない。

 守りたいものが出来た。

 冷酷非情だと称された自分に。

 感情など存在しないと言われていた自分に。

 だからこそ、守り抜きたい。

 最後の最後まで。

 最期の最期まで。

 砂上の楽園を――

「帰りましょう、ティノ様」

 ふと、カイスの

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